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「雨後図」 松林桂月作
2010年2月24日掲載

 ひとしきり雨が降ったあとの、みずみずしいうす緑色の実をたわわにつけた葡萄の古木。風も止まった湿った空気のなかで、蔓の先端はすこしも揺らいでいない。
 画面の右上を見ると、葡萄の葉が水ににじんだようにぼやけたかたちで描かれている。雨滴を大量に受けた大きな葉の表現として見ると、ちょっとおもしろい。
 葡萄の木の背後に広がる微妙な光の表現を見ていると、子どものころに見た夏休みの空、あの夕立の雲が足早に流れ去ってゆく薄暗くも明るい空の様子をまざまざと思い出した。
 まだ頭上には黒雲が残っているけれど、遠くにはもう青空が広がりはじめている…。
 よく「墨に五彩あり」というけれど、たしかにこの墨一色の絵のなかに、葡萄の実と雨後の空の色をはっきりと感じたような気がする。一瞬のうちに昔の記憶をもよみがえらせる絵の力に驚かされた不思議な経験だった。今月28日まで展示。

県立美術館学芸課長 斎藤 郁夫