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おんなの目

手に入れたいもの(2010年3月5日)
 突発性難聴で10日間入院しベッドに寝ていた時、退院したらピンクのスーツを買おう、と唐突に思った。ピンク色のカーテンに囲まれていたからかもしれないが、色はピンク。それも濃いショッキングピンク。きちっとした鋭角のスーツが欲しいと思った。
 退院し、商店街に出かけたついでにスーツを見た。周囲は全部赤札がついて値引きされているのに、私がイイナァー、と思ったショッキングピンクのスーツは値引きされていず、すごく高価。この価値に負けない人だけ着てくださいって言っているような。屹立として孤高を守っている。巷の喧騒もここまでは届かない。このスーツに目をつけた自分に清々しさを感じた。名誉ある撤退だ。
 ここ数年、どうしても手に入れたいほど欲しい物もないし、食べたい物もない。万難を排して行きたい所もないし、したいこともない。通したい主張もない。これを成熟というか無気力と考えるか。
 しかし、病気になった時、颯爽とした目を見張るような色のスーツを着て何か仕事をしたい、と思う反発力はある。それも淡いものだが。
 いや、手に入れたいものはある。“何事が起こっても肝が据わっている”そういう精神だ。ベッドでピンクのスーツ以外に考えたことはそのことだ。

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