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おんなの目

行き当たりばったり(2010年4月24日)
 柔らかい木の芽の匂いのする爽やかな風が吹いています。庭の藤棚に淡い紫の花が咲き出しました。花房が20も下がっています。満開が楽しみです。
 美しい季節なのに私の生活は行き当たりばったりなのです。
 朝起きるとすぐに、岡本太郎著“強く生きる言葉”を目を瞑ってパッと開く。135の言葉が1頁に一つずつ書いてあるのです。一昨日に開いた頁にはこうあった。「いいかい、怖かったら怖いほど、逆にそこに飛び込むんだ。やってごらん」。ということで、怖くてなかなか行くことができなかった歯医者に行った。奥歯がピリピリ痛かったんです。太郎氏の言葉でやっと決断できました。
 昨日は「年とともに若くなっていくのが自分でわかるね」だった。天才太郎氏の考えが所詮私ごときにわかるわけはないのだが、―年をとると物の本質が見えてくる、それは実にシンプルですっきりしたもので、身体が軽くなってくる。若くなる―無邪気に遊べばいいと解釈した。なんていい言葉だ。食べたかったケーキを自転車で買いに行った。
 今日の行き当たりばったりは、「ぼくはきみの心のなかに実在している。疑う必要はいっさいないさ。そうだろう」。はい、太郎さん。あなたを感じて過ごします。今日は良い日だ。
感じろ、感じろ!(2010年4月17日)
 先日、東京に1週間出かけた。私は都会が大好きなのでウキウキした気分で新幹線に乗った。15年ぶりの東京だ。
 岡山、神戸、大阪と都会を走り抜けているのにウキウキ感が高まらない。
 感じろ、感じろ。前の席の女性は、山口には売っていないピンクのブランド物のワンピースを着ているじゃないか。都会的だ…いや、服が身に馴染んでいない。全体的に暗い。何故なんだ。彼女の物語を感じろ、想像しろ。目の前の獲物を深くみつめろ。観察しろ。ほら、荷物の端から見えているのは宗教雑誌だ。なにか思わないのか。感じろ…と私は自分のすべての感覚器官に命じるのだけれど、感じない。それ以上思いが深まらない。
 東京到着時には、もう外は薄暗くネオンが輝いていた。超高層マンションに灯りが点っている。あの一室に暮らしたいと思っていた。そこにはロマンも社会的成功もなんでもあるように思っていた。今見たら何も感じない。ただ巨大な塊があるだけ。
 ほら、おまえの好きな都会だぞ。行き交う人達の脚は速い。どんな夜を過ごすのだろう。感じろ。湯田にない夜景だ、華やぎじゃないか。物語の最初の一行を捕まえろ。頭は命令するのだけれど、感覚は動かない。もしかしたら東京願望卒業かな? ホテルの部屋でそう感じた。
右と左(2010年4月3日)
 我が家の小さな門を入ると右に椿、左に山茶花が咲いている。花や木の形はよく似ているが大きな違いがある。椿の花は咲き終わると花首からストンと落ちる。山茶花は盛りを過ぎると、花びらが一枚ずつ静かに散って行く。
 新山口駅の新幹線改札口を抜けると右が九州方面、左が東京方面へと分かれている。どちらにも大切な友人がいる。私が受講する文章教室で、私の右側の席のTさんはいつも詩を書いている。左側のOさんは小説一本槍だ。
 デパートのエレベーターの中で双子の赤ちゃんに出会った。私の右にお母さんに抱かれた赤ちゃん、左にオバアチャンに抱かれた赤ちゃん。右を向いても左を向いても今にも泣き出しそうな同じ顔があった。今日の私の右手はクリームパンの甘い匂いがする。左手は、酸っぱいミカンの匂いがする。昼食は、クリームパンとミカンであった。
 山口県出身の詩人礒村英樹氏に“さびしい左胸”という詩がある。
あなたはいつも/左手でしか抱いてくださらない/ハートに近い方の手だぞと恩に着せて/左手でしか抱いて下さらない//抱き合うとき/にんげんはもっとも隙がある/そこを狙って/背後に迫る敵を/ふりむきざまに斬り払うために/右手はいつも遊ばせていなければならない(略)