右手の中指をコンクリートの壁でこすってしまいました。皮がめくれて直径五ミリの傷が出来ました。きれいな真円で、新鮮なマグロの赤身と同じ肉がぽっかり。
風が吹いて傷を撫でます。おお、痛! 手を振って痛さを散らして紛らわせ、唇をつけて舌で舐めました。あっ、あっー、唾液で沁みる。涙目です。
緑の艶やかな蔦を生やしたコンクリートの壁は知らんぷりです。私の指を傷つけておいて同情の気配すら見せません。謝る様子もありません。いや、それ以上に灰色の壁は、私の頓馬を笑っているようにも思えます。指を風からかばって、スカートのポケットにそっと入れて家に帰りました。
絆創膏を指に貼って、ホッと一息。家には誰もいません。一人で貼ります。左手で貼った右手の傷の絆創膏はねじれていました。傷が少しはみ出ているので、もう一枚貼りました。これで大丈夫。絆創膏の上に右手を置くと、傷がドキンドキンと脈打ってます。
一週間もすると、傷は閉じます。土の上にできた水たまりが、周縁から徐々に乾いていき、最後には土と同化するように。毎日、絆創膏を張り替えるたびに傷の変化を見るのが楽しみです。後期高齢者ですが、たくましい修復能力です。