冬眠から目覚めたくまの目に入ってきたのは、有刺鉄線に囲まれた大きな建物でした。冬のあいだに、木は切り倒され、機械が次々に運びこまれ、森は工場に変わってしまっていたのです。
状況がのみこめないまま立ちつくしているくまを人間だと勘違いした工場の人は「とっとと しごとにつけ」と命令します。くまがいくら「ぼくはくまです」と言っても聞き入れてくれません。そればかりか「ほんとうに くまだというんなら、それを 証明しなくちゃだめだね」とまで言われます。
ところが動物園のくまには「ほんもののくまは、かこいの中でくらすものだ」と言われ、サーカスのくまには「おどりのできないやつは、くまじゃない」と受け入れてもらえません。
くまはどうすることもできず、結局人間に言われるがままにひげをそり、作業服を着、工場で働くことになったのです。
「ぼくは くまのままで いたかったのに……」
それからのち、このくまがどうなったのか―この作品は、それを読者に問いかける形でおわっています。
ほるぷ出版 (2024年新版)
文:イエルク・シュタイナー
絵:イエルク・ミュラー
訳:大島 かおり
ぶどうの木代表 中村 佳恵