外見は実年齢より五歳上に見られたい。現在七十八歳なので八十三歳。「まあ、七十八歳なの。落ち着いているから八十三歳に見えたわ」。
八十三歳の外見の理想はこうだ。時は明治末期。場所は、北前船の寄港地として栄華を誇った日本海側の町の商家。縁側に座る小柄な脂気のない痩せた老女。細い眉、着物を緩やかに着、盆栽を眺めている。人に接する時には、微笑みを絶やさず人生を肯定する寛容な言葉を繰り出す。私の理想。
見えない内面には成熟を求めない。八十三歳の皮一枚下は、まだ未知の世界を見たい。新しい世界に向けてジャンプしたい。変わりたい。成長をしたい。内面はどろりとした熱せられた炉だ。これが理想。
現在の私は、バスに乗り若い人に席を譲られたら礼を言い座る。腰痛があるので嬉しい。静かに車窓の景色を見る。八十三歳に見え理想だ。
見えない内側は下世話で騒がしい。木が電線に触れている。早く伐って。あら、新しい店が出来ている。食べに行こう。狭い道なのにバスに向かってつっこんで来る車。危ない。窓からお地蔵様に祈る。棚から牡丹餅がありますように。買い物を頭の中で確認する。半分は思い出せない。
内面に関しては弛緩していて炉は燃えていない。理想には遠い。