丘々は、胸に手を当て
退けり。
落陽は、慈愛の色の
金のいろ。
原に草、
鄙唄(ひなうた)うたひ
山に樹々、
老いてつましき心ばせ。
かゝる折しも我ありぬ
少児に踏まれし
貝の肉。
かゝるをりしも剛直の、
さあれゆかしきあきらめよ
腕拱(く)みながら歩み去る。
【ひとことコラム】落陽がもたらす光と影が、山や草や樹など、自然の風物の存在を際立たせているのに対し、同じ時間の中にいて〈我〉はどこか異質で痛々しい感じを漂わせています。「春の日の夕暮」にも似た構図ですが、最終連にそれを受け入れ独自の道を進もうとする姿勢が見えています。
中原中也記念館館長 中原 豊