菓子の売り場で長く迷っている。友達の家に遊びに行くのに持っていく菓子を選ぶのに戸惑っているのだ。どの菓子も美味しそうで選べずに迷っているのではない。特別に欲しい菓子がないのだ。食べたいと思えるものがない。
二十年前、六十歳代ではどの菓子を見ても食べたくて食欲を抑えるのに苦労した。ケーキや和菓子が宝石のようにキラキラ輝いて見えた。ケーキバイキングで十個食べたことがある。
友達とおしゃべりをしていたらきっと夕方になる。菓子のかわりに友人宅と我が家に夕食の惣菜を買おう。煮魚に塩焼き、野菜サラダや根菜の煮もの、揚げ物、美味しい匂いがしてくる。しかし、これはという食べたいものがない。
友人宅を訪ねるのにはまだ時間が早いので店内をうろうろした。
衣料品売り場には、優しい色合いの春物、軽やかな初夏のワンピースがひらひらと並んでいる。面白いデザインの物には目が行くが、店員さんが試着を勧めてくれても着てみる気になれない。服が欲しくてたまらない時もあったのに。新しい服が嬉しかったのに。世の中が変わったわけではない。私が老化しただけだ。
結局、土産に郵便局で葉書を数枚買った。私と友人の連絡は葉書だ。今、一番欲しいのは値上がりした葉書。