S市の街中で二時間ほど時間が空いたので、ファミリー・レストランに入った。入口に「お好きな席にどうぞ」と案内板があった。窓際の席に座った。テーブルの上にタブレットがあり、それを操作してコーヒーとトーストを注文する。トーストのパンにはバターかジャムか、サラダのドレッシング等など個人の好みを尊重し、好きな方を選べる。食事は楽しくするほうがいい。
昭和三十年頃、栄養状態の悪い戦後の子供達への配慮のために供せられた学校給食を思い出す。私はなんでも食べる大きな子だった。けれど、褐色の脱脂粉乳だけは飲めなかった。飲むまで帰宅できないのだ。夕暮れの教室で、ミルクの入ったアルマイトの食器を前にじっと座っていた。もう一人Kちゃんも俯いて座っていた。
熊さんのワゴン車がコーヒーとトーストを乗せてやってきた。ありがとう。コーヒーを一口飲んで、フーと溜息ついて、横を見ると熊さんはまだいる。「まだいるの?」。トーストにバターをつける。パン屑が落ちる。「帰らないの。なんで?」。別の熊さんワゴンはすいすいと客席を通って職務を全うしている。「お友達は働いているよ。帰って」。そこに従業員さんが来て、黙って熊さんの鼻をポンと押した。嬉々として熊さんは帰って行った。鼻を押すのね。了解。