「壁に向かう男」といえば、雪舟筆、国宝「慧可断臂図(えかだんぴず)」(1496年)が思い浮かぶ。
洞窟の壁に向かって9年。ひたすらに座禅修養していた達磨さんに、僧・神光(じんこう)(後の慧可(えか))が弟子入りを請う場面だ。いくら話しかけても壁を向いたままの達磨に、自らの左腕を切り落として覚悟のほどを示した神光。身じろぎもしない達磨-目だけはギロリとこちらを睨んだ。どうやら弟子入りは許したようだから一安心。
一方、本日ご紹介する「壁に向かう男」は、カナレットによるヴェネツィア景観画の一部、右下隅に描かれた些細な挿話(エピソード)である。
赤い服の男が、「コラーッ! そこでそんなことしちゃぁいかんよ」と怒鳴るのだが、怒鳴られた男は背を丸めたまま身じろぎもしない・・・というか、止まらないんだな、きっと。
※「カナレットとヴェネツィアの輝き」展(6月22日まで)展示作品より
山口県立美術館 河野 通孝