今回採り上げるのは滝町の五十鈴川ダム下流にある国の天然記念物「法泉寺のシンパク」である。大内文化をたどると言いながら天然記念物か、とお叱りを受けるかもしれないが、大内文化とも深い関わりがある。この樹は大内時代にここにあった法泉寺山門脇に植えられており、寺の創建が千四百年頃と伝わるので、それが正しければ樹齢は優に六百年を超えることになる。
1551年8月、築山館で能楽興行に浮かれる貴族趣味の大内義隆に対して武断派の陶晴賢の軍勢約五千騎が山口に乱入し、驚いた義隆は館を捨て法泉寺に逃れた。つまり、このシンパクは無残に都落ちする義隆を見ていた生き証人と言えるのである。この戦いによって二百年の栄華を誇った山口の街は灰燼に帰した。法泉寺を脱出し、朝倉街道を辿って長門経由で九州へと逃れようとした義隆は、それも叶わず大寧寺で自刃してしまうのである。
文・イラスト=古谷眞之助