正平3年(1348)1月5日。10時から始まった戦闘は、すでに7時間が経過しようとしていた。一時は、北朝方の大将、高師直(こうのもろなお)をあわやというところまで追い詰めた楠木正行(まさつら)(正成(まさしげ)の婻男)。しかし、3千対6万ともいわれる桁違いの兵力差はいかんともしがたく、南朝方の命運もはやこれまでか―という場面(シーン)である
左方から雨あられと降り注ぐ矢。終わることのないその攻撃を刀で振り払う和田正朝。左手は力尽きた仲間の肩をむんずと掴み、その体を盾代わりに使う。しかし、和田の奮闘むなしく、大将、正行にはすでに5本の矢が・・・
その時、足許で息も絶え絶えの側近が頭から血を流しながら、こういうのである―「と、殿、もはやこれまででござる。ご覚悟を」(アクション映画さながらの国芳演出にのせられた私の妄想です。お許しください)。
※「歌川国芳展」より(会期中大幅な展示替えあり。前期は10月26日まで。会期は11月24日まで)
山口県立美術館 河野 通孝