ティキ・プーは、大きな画塾で使い走りとして働く少年でした。塾生たちの筆を洗い、紙を整えたりするだけの毎日でしたが、魂の奥底では常に、自分も絵を描きたいという熱い思いを燃やしているのでした。
その画塾には、三百年前の大画家、ウイ・ウォニが最晩年に描いた傑作が飾ってありました。ティキ・プーはその絵を、世界全体をあわせたよりも値打ちがあると思っていました。
ティキ・プーの情熱は時空を超えてウイ・ウォニに届き、ある奇跡が起こります。そして、取るに足りない小僧っ子だった彼は、すばらしい画家へと成長していったのでした。
魂を焦がすほど心奪われるものに出会い、その世界へ導いてくれる先生に出会えたティキ・プーは、何と幸せものでしょう。そしてまた、自分のもっている技のすべてを伝えたい、と思える若者に出会えたウイ・ウォニも。
「善いもの、美しいもの、真実なものは、時を隔てても、世代を超えても、伝えられていく」という、訳者松岡享子さんの言葉とともに、心の深いところにまで響いてくる作品です。
福音館書店(2024年)
著者:ローレンス・ハウスマン
訳:松岡 享子
ぶどうの木代表 中村 佳恵