どこまでも追いかけてくる大蛸。小刀を振り上げ逃れようとする海女。絶体絶命の危機である。
胸元には、大事そうに抱えた宝珠が見える。実はコレ、そんじょそこらの玉じゃない。唐の皇帝に嫁いだ藤原鎌足の娘から、興福寺造営のために贈られた霊玉である。
ところが、輸送中、讃岐沖で龍神に盗まれた! 諦めきれない不比等(鎌足の息子)は讃岐に赴く(お話によっては鎌足の場合も)。そこでいつしか契りを交わす仲となったのがこの海女である。
やがて息子が生まれ、男から自分の正体を告白された海女はその意を汲み、息子を藤原家の跡継ぎにという約束をして、宝珠を奪い返しに行くことに。
描かれているのは決死の覚悟で奪い返した後の逃亡劇。男のもとへなんとかして戻ろうとする場面である。
江戸時代、人気を博した海女の玉取り伝説。振り上げた小刀の切っ先はどこに向かうのか―結末は会場でどうぞ。
※「歌川国芳展」より(会期は11月24日まで)
山口県立美術館 河野 通孝