昨日は喜び、今日は死に、
明日は戦ひ?……
ほの紅の胸ぬちはあまりに清く、
道に踏まれて消えてゆく。
歌ひしほどに心地よく、
聞かせしほどにわれ喘(あえ)ぐ。
春わが心をつき裂きぬ、
たれか来りてわを愛せ。
あゝ喜びはともにせん、
わが恋人よはらからよ。
われの心の幼なくて、
われの心に怒りあり。
さてもこの日に雨が降る、
雨の音きけ、雨の音。
【ひとことコラム】〈胸ぬち〉は胸の内の意。ぬかるんで無数の足跡が残る路面に対人関係で傷ついた心を重ねています。歌う喜びも聴き手を意識すれば苦しみに変わる。そんな心の陰りを春の明るさが際立たせる中、詩人は折しも降り出した雨を天啓のように感じ、その音に耳を澄ませています。
中原中也記念館館長 中原 豊