富吉くんのお父さんの甚吉さんは、南の戦場へ行く途中、乗っていた船が沈められ、それっきり帰ってきませんでした。
それを知ったくらげのパポちゃんは、大きくなった富吉くんの様子を伝えたいと思い、甚吉さんを探しに行くことにしました。
大きなアンコウにのみこまれそうになったり、ノコギリザメにおそわれそうになったりしながらも、パポちゃんは一生懸命大海原を泳いでいきました。そしてとうとう、海の底に眠る甚吉さんを見つけたのです。その手には、家族の写真がしっかりとにぎられていました。
「富吉くんはね、じょうぶで立派に大きくなってね、お母さんを助けて元気に働いていますよ」。
パポちゃんは甚吉さんの耳もとでそうささやくと、ポツンとひとつ、涙を流しました。
この本は、かこさとしさんが約70年前に書いた生前未発表の原稿に、孫の中島加名さんが絵をつけて作られました。長女万里さんの書いたあとがきを読むと、出版までの経緯がわかります。親子三代の、平和への思いのつまった作品です。
講談社 2025年
文:かこ さとし
絵:中島 加名
ぶどうの木代表 中村 佳恵