小寒なのにとても暖かい午後、縁側に座って本を開きました。
五月の雉 蔵原伸二朗
(略)ここはしずかな山の斜面/一匹の雌きじが 卵を抱いている/(略)谷間を下る せせらぎの音/ふきやもぐさの匂いが/天に匂う/(どこからも鉄砲の音などきこえはしない)//(略)やがて、うす化粧した娘のような新月が/もやの中からゆっくりと顔を出す/―今晩は、きじのおばさん―/平和な時間がすぎてゆく/きじの腹の下で最初の卵がかえる/(略)(どこからも鉄砲の音などきこえはしない)
父は、狩猟解禁になると山に雉撃ちに行きました。銃を肩に父、速足で行く猟犬エル。えっちらおっちら十歳の私。ススキや紅葉の中を行く。
山の斜面の藪の前、ぴたりとエルが止まる。尻尾は直角。静かに。息をつめる私。父が片膝立てて銃を構え叫ぶ。行け! エルが藪に突っ込む。四十五度の角度で飛び立つ雉。撃つ。どっと落ちる雉。雉を下げて藪から父が出て来る。私はまだ温かい雉を抱く。柔らかく閉じられた瞼。すべすべした羽。吠えるエル。雉が捕れて良かったね。裏の元伍長片足のないタネさんに持っていこうね。
八十歳の私はふっと見つけた詩「五月の雉」の中に父とエルとあの日の雉を見る。