夏の食器は涼しさを感じさせるガラスのものが多い。透明な一点の曇りもないグラスは美しさの最高峰。炭酸水を注ぐとふあーと気泡が上がり、そこは人魚の泳ぐ神秘な世界。人魚の尾鰭(ひれ)が見え隠れする。鰭は気泡が弾けるたびに七色に揺らぐ。見惚れる。
色とりどりのガラスの皿もいい。格子柄の青いガラス皿を五枚重ねると深い北の海の色になる。北極海の深い深い海の色。迷い込めば一瞬に命を失う海。恐怖で身が縮む。でも、なんて、美しいんでしょう。
深海の上に三個の氷を乗せる。上から見ると氷が青い。ロシアの原子力潜水艦クルスク号が見えた気がした。青い氷を口に含む。ああ、冷たい。心臓が止まりそう。
色のないガラス鉢をチューリップの花柄のテーブルクロスに置くと、鉢の下でチューリップの蕾が開き始める。親指姫がいないかと目を凝らす。チューリップの中は淡い紅色。光りが屈折して花びらが少し反り気味。親指姫が花びらに腰かけている。後ろ向きなので可愛いお尻と頭のリボンしか見えない。
鉢の中に青い皿を入れ、その上に透明なグラスを置く。ガラスのタワーの出来上がり。もっとガラスを。ビー玉をグラスに入れる。あふれるほど入れる。美しいタワー。