去年の夏はジメジメ、ムシムシ。気温35度以上の猛暑日が続きました。
そんなある日、森の中で全身氷ついたかのようなセミの姿がふと目に留まり、一瞬で真冬の空間に迷いこんでしまったかのような錯覚を覚えました。
これはセミノハリセンボンという菌類に寄生されたセミを撮ったものです。冬虫夏草の一種で、無数の白い針状の子実体(しじつたい)が体中から生えることから、〝ハリセンボン〟の名がつきました。この菌類は無性生殖で増殖するとされ、子実体から環境中に分生子が放出され、次の宿主となるセミの体表面に付着します。宿主の体組織を栄養源として増殖し、宿主が死んだあと、再び無数の針状の子実体を形成します。
過酷な自然環境の中で命は繋がっていきます。真夏に現れた〝冬の景色〟は、命が命を支え、次へと受け渡されていく自然の仕組みを、静かに教えてくれているようでした。
山口県立山口博物館 動物担当学芸員 大森 鑑能