生 杉山平一
ものをとりに部屋へ入って/何をとりにきたか忘れて/もどることがある/もどる途中でハタと/思い出すことがあるが/そのときはすばらしい//身体が先にこの世へ出てきてしまったのである/その用事は何であったか/いつの日か思い当たるときのある人は/幸福である//思い出せぬまま/僕はすごすごあの世へもどる。
私のことみたい。知らぬ間に強い力でこの世に引っ張り出され、あわてて苦しくて泣き声をあげたので、覚えていた用事を忘れてしまった。そもそも、私に用事があったかな?
ある日、トイレットペーパーをクルクルと引き出しながら、こんなに贅沢に真っ白な紙を使っていいんだろうか。今、紙は何から作られているか知らないが、コウゾ・ミツマタは大丈夫なのか? 湯舟に湯を張りながら、こんなに沢山の湯を使っていいんだろうか? 昼間テレビで、砂漠でラクダと共に生活する人達を見た。生活の糧のラクダのために、乾期水を求めて何日も砂埃の舞う地を歩く少年。私は寒いとストーブを焚く。青白い炎を見ながら、私一人のために石油を燃やしていいのかしら?
消費するだけの日々。なにか忘れ物をしている気はするが。何も思いだせぬまま毎日が過ぎていく。